ファシアとは何か
ファシアとは、筋肉や骨、靭帯(腱)、内臓、血管、神経など体のさまざまな組織を包み込んでいる膜状の組織のことです。
近年テレビ番組で取り上げられて話題になっている筋膜は、ファシアの中でも特に筋肉を包んでいるもののことを指し、解剖学的には「ミオファシア(MyoFascia)」と呼ばれています。
ファシアの主成分はコラーゲンやエラスチンなどのたんぱく質で、それらが網目状に折り重なって組織の表面を包み、組織同士をつないでいます。
また、ファシアは高い伸縮性を持っていることも特徴のひとつです。
ファシアは大きく2つの役割を持っています。
1つは、組織の表面を包んで保護する役割です。
間仕切りの付いたお弁当箱を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。
お弁当箱にはご飯のほかに、さまざまなおかずを入れたりしますが、間仕切りが付いていないと、揺らしたときにおかず同士でぶつかってしまいますよね。
同様に、ファシアがないと組織同士が触れて、体を動かしたときに組織が傷つくことがあるので、組織の表面をファシアが包むことで、組織が傷つかないように保護しています。
もう1つは、隣り合っている筋繊維同士をつないで、力を周りに伝達する役割です。
ファシアは筋肉の周りを包むだけでなく、筋肉の束を包むものや、それぞれの筋線維を包むものがあります。
そして、一つひとつの筋繊維は、隣り合っていてもつながっているわけではないので、そのままだと力が十分に周りに伝わらず、体を上手く動かすことができません。
ファシアが筋線維同士の間を取り持つことによって、筋繊維で生み出された力を別の筋繊維に伝え、スムーズに体を動かす際の助けとなります。
ファシアの異常が体にどんな影響を及ぼすか
さまざまな機能で体の動きに貢献しているファシアですが、特定の条件下では十分に伸縮せず、硬くなることがあります。
そして、ファシアが硬くなって新たなトラブルを引き起こすこともあります。
循環不良
ファシアが硬くなると、周りにある血管やリンパ管を圧迫して血液やリンパ液が通る道をふさいだり、筋肉のポンプ機能を低下させたりすることがあります。
血液やリンパ液が上手く流れなくなると、むくみや冷え性のほか、次のトラブルにも発展していきます。
体の動きが鈍くなる
血液やリンパ液の流れが滞ると、筋肉に上手く栄養が届かなくなったり、全身の老廃物が上手く回収されなくなったりして、体の動きが鈍くなることがあります。
例えば、筋力が低下して運動時のパフォーマンスが落ちたり、体力が落ちて体を動かすことがつらくなり、体を動かす機会が減ったりします。
その結果さらに体の動きが鈍くなり、体を動かすことがさらに減って…という「負のスパイラル」が発生する可能性があります。
姿勢のゆがみ
ファシアが硬くなることによって、循環不良や体の動きが鈍くなって起こる可能性があるのが、腰や背中の筋力低下による姿勢のゆがみです。
また、ファシアが硬くなると、ときに周りの筋肉や神経を圧迫して、痛みや不快感を発することがあります。
それをかばって姿勢がゆがんでいくケースもあります。
肩こり
肩こりの原因のひとつとされているのが、姿勢のゆがみや肩や首のファシアが硬くなることです。
肩周りのファシアが硬くなって、その周りにある筋肉や血管、神経などを圧迫すると、圧迫を受けた筋肉や神経が痛みや不快感、疲れ、だるさなどを覚えることがあり、肩こりの原因のひとつとなっています。
腰痛
実は、腰痛が起きる原因は、完全には明らかになっていません。
病気やケガの影響などを除くと、ほとんどの原因は特定できないものです。
ただし、腰痛を引き起こすと疑われる要因は多く、腰の筋力低下や姿勢のゆがみも、その中のひとつです。
ファシアが硬くなることで、腰の筋力が低下して上手く機能しなくなったり、姿勢がゆがんだりすることで腰への負担が大きくなり、腰痛へとつながっていくと考えられています。
筋・筋膜性疼痛症候群(きんきんまくせいとうつうしょうこうぐん)
筋・筋膜性疼痛症候群とは、何らかの原因で、ファシアのひとつである筋膜が痛みを引き起こす症状のことです。
筋・筋膜性疼痛症候群が起きると、体のさまざまな場所でうずくような痛みやしびれるような感覚を覚えます。
また、肩こりや腰痛などの中にも、筋・筋膜性疼痛症候群が原因で起きるものがあります。
筋・筋膜性疼痛症候群については、以前の記事で詳しくご紹介しているので、そちらもご覧ください。
【関連記事:体で起きる謎の痛み!それって筋・筋膜性疼痛症候群かも?】
トリガーポイント
ファシアの不調と密接に関わっているのがトリガーポイント(Trigger Point)です。
トリガーポイントとは、体の痛みや不快感などを引き起こす場所を指す言葉です。
トリガーポイントはファシア内で生まれるケースが多く、トリガーポイントを押さえると体のどこかで痛みや不快感が起こります。
ちなみに、痛みや不快感が起こる場所は、トリガーポイントと同じこともあれば、トリガーポイントとは全く別の場所のこともあります。
そのため、マッサージなどで痛みや不快感のある場所をもみほぐしても、トリガーポイントがほぐせていない場合、一時的に症状が気にならなくなっても、すぐに新たな痛みや不快感にみまわれる可能性があります。
トリガーポイントのあるファシアを正確にケアすることが重要です。
ファシアのケアはどうすればいい?
どのようにファシアをケアすれば良いでしょうか。
そこでここからは、ファシアをケアする方法をいくつかご紹介します。
適度な運動
ファシアが硬くなる理由のひとつに、運動不足があります。
日頃から、適度に体を動かすことによって、組織(主に筋肉)を包んでいるファシアをほぐすことができます。
また、適度に運動していれば血液やリンパ液もスムーズに循環してくるので、循環不良へのケアにもつながります。
ただし、急に激しく運動するのは、逆に筋肉を傷つける恐れがあるのでNG。
体格や体調に合った、適度な運動を心がけましょう。
姿勢矯正
ファシアの不調につながる原因のひとつが悪い姿勢です。
悪い姿勢を続けていると、一部の筋肉への負担が大きくなって筋肉が緊張し、その周辺のファシアも硬くなることがあります。
そのため、姿勢矯正で正しい姿勢を取り戻すことで、ファシアの不調へとアプローチできます。
また、体の痛みをかばって姿勢が悪化している場合は、姿勢矯正をする前に痛みへの対処を行うことが大切です。
筋膜リリース
初めにお話しした通り、筋膜はファシアの中で筋肉を包むものを言います。
そのため、筋膜リリースによってファシア由来のトラブルにもアプローチできる可能性があります。
いくつかご紹介しましょう。
肩こり向け
肩こり向けには、肩や首の筋膜をほぐす方法があります。
以前の記事では、ストレッチで肩や首の筋膜を引き延ばす方法をご紹介しています。
【関連記事:つらい肩こりや首こりの原因はこんなところに!?筋膜リリースで肩こり・首こりの対策をしよう】
また、猫背のような悪い姿勢を続けていると、頭が前に突き出て肩や首の筋肉への負担が大きくなり、肩こりへとつながるので、姿勢を整えるための筋膜リリースも行います。
腰痛向け
腰痛向けには、腰回りの筋膜を軟らかくほぐして腰の筋肉が機能を発揮できるようにアプローチします。
また、肩こりの場合と同様、姿勢を整える筋膜リリースも、腰痛対策として行われます。
そのため、背中や腰、胸の辺りへ筋膜リリースを行うことが多いです。
エコーガイド下筋膜リリース
エコーガイド下筋膜リリースとは、医療機関で受けられる筋膜リリースのひとつです。
エコー(超音波)画像を確認しながら、硬くなった筋膜に生理用食塩水や薬液を注入します。
医療機関で検査を受けた後に行われるため、手軽とは言えないものの、確実性の高い筋膜リリースの方法です。
おわりに
今回は、一般的に筋膜と呼ばれることも多い、ファシアについてご紹介しました。
ファシアの不調は体のさまざまなトラブルにもつながるので、ぜひ今回お伝えした対策を実践して、できるだけトラブルのない暮らしができるようにしましょう。