食事中に口が開きにくくなったり、ものを噛むときにあごが痛くなったことはありませんか?
その症状はひょっとしたら「顎関節症(がくかんせつしょう)」かもしれません。
今回は、顎関節症の症状や原因、対処法についてご紹介します。
顎関節症とは?
人間のあごは、さまざまな筋肉が顎関節を支点にして動くことで、ものを噛んだり喋ったりすることができるようにつくられています。
そのため、顎関節や周辺の筋肉などに不調が発生すると、あごがうまく動かせなくなったり、あごを動かす時に痛みを生じるようになります。
顎関節症は、そうした「あごの動きに異常が出る症状や疾患」の総称です。
顎関節症に悩む人は多く、口を開いた時にあごが「カクン」と鳴るなどの軽めの症状を含めた場合、日本人のほぼ半数が発症するといわれています。
また、症状が進行すると痛みがひどくなり、力が入らなくなって口を開けることさえできないケースもあります。
顎関節症ではどんなことが起こる?
ここからは、顎関節症の具体的な症状をご紹介します。
現在は、大まかに5つの症状に分けられています。
それぞれ見ていきましょう。
①咀嚼筋に不調が現れる
「咀嚼筋(そしゃくきん)」とは、口を開閉するときに使われる筋肉群のことで、「咬筋(こうきん)」「側頭筋(そくとうきん)」「外側翼突筋(がいそくよくとつきん)」「内側翼突筋(ないそくよくとつきん)」の4種類を指すのが一般的です。
この咀嚼筋が何らかの原因で不調をきたし、口を開閉するたびに頬やこめかみの部分が痛むことがあります。
食事をしたり、誰かと喋ったりと、日常生活の中で口を開く機会は多いでしょう。
そのたびに痛みや不快感に苛まれるため、人によっては強いストレスにもなります。
②関節周辺の組織に異常が現れる
顎関節の周囲には、関節を包む「関節包」や「靭帯」などの組織があります。
これらの組織が傷つくと、炎症が起きてあごの動きを圧迫したり、発痛物質が生まれて痛みを引き起こしたりします。
あごをどこかに強くぶつけたり、硬いものを無理やり噛んだり、大あくびをするなどが原因と考えられています。
③関節円板が引っかかる
あごの関節は、頭蓋骨のくぼみに差し込まれる形で収まっています。
そして顎関節と頭蓋骨の間には、関節のスムーズな動きを助けたりクッションの役割を果たす「関節円板」という組織があります。
何らかの原因(後述)で関節円板が本来の位置からずれたり、いびつに変形したとき、口を開けたり閉じたりする際に関節円板が顎関節に引っかかって動きを阻害することがあります。
軽度のものでは痛みが無く、引っかかった顎関節が解き放たれるときに「カクン」「コキン」と音が鳴る程度ですが、症状が進行するとスムーズに口を開閉できなくなったり、口を大きく開くことができなくなります。
場合によっては、口を大きく開いた時にあごが外れることもあります。
④あごの骨が変形する
加齢や病気などの影響で、顎関節に関わる骨が変形することがあります。
その結果、①~③の症状のうち1つ以上が引き起こされることがあります。
⑤その他の症状
顎関節症は、「あごの動きに異常が出る症状や疾患」の総称であることをお伝えしました。
中には、①~④でまとめたものとは別の、「その他の症状」が発生することがあります。
さらに、顎関節症はあご以外の身体の部位にもさまざまな影響を与えます。
例えば頭痛や肩こり、めまい、耳鳴りといった不調や、ひどい時にはものを飲み込めなくなる嚥下困難や、呼吸困難のような、命に関わる影響を与える可能性もゼロではないので、できるだけ早めの対処が必要になります。
さて、ここからはそんな顎関節症の原因についてのご紹介です。
顎関節症はなぜ起こるの?
顎関節症の原因として、これまでよく言われていたのは「噛み合わせの悪さ」です。
確かに、噛み合わせが悪いことによって顎関節症が起こることは間違いありません。
しかし、本当にそれだけが原因なのでしょうか。
近年、顎関節症に関する研究が進むことによって、顎関節症の原因は噛み合わせの悪さ以外にもさまざまなものがあることが判明しました。
例えば、急に大きなストレスを受けたり睡眠不足などに陥っている場合、筋肉は常に緊張した状態になります。
すると、咀嚼筋の機能が低下して周囲の血行が滞り、不調となって身体に現れます。
その他、顎関節の周囲で強い衝撃を受けたり、強く歯を食いしばったりして、顎関節やその周囲の組織に対して負荷をかけ続けることなども原因として挙げられます。
重要なのが、顎関節症は上述したことが「単体で原因となることはほとんどない」という点です。
顎関節症は、複数の要因が複合して起きる「多因子性」の症状と考えられており、「顎関節症になる原因のひとつを取り除いたので、万事OK」とはなりにくい点に注意しなければいけません。
顎関節症の対処法とは
顎関節症の対処法としては、基本的に歯科医院に行くか、整形外科や整骨院、整体に行くかのどちらかになります。
「歯医者さんは分かるけど、整形外科とか整骨院って捻挫や骨折した人が行くところじゃないの?」と思われる方もいるかもしれません。
もちろんそれも間違ってはいませんが、整形外科や整骨院、整体などは骨や関節、筋肉で起きたトラブルを専門的に扱っている場所です。
そして、上でご説明したように、顎関節症はあごの関節だけでなく、そこに関わるさまざまな筋肉や骨などの組織が関係している症状です。
そのため、歯科医院だけでなく整形外科や整骨院、整体などで行う施術が適切な場合もあります。
歯科医院で施術を受けるべきか、整形外科や整骨院、整体などで施術を受けるべきかは患部の場所や症状で異なりますので、まずは歯科医院や整形外科などの「医療機関」でどこに問題があるのかを正確に「診断」してもらうことが重要になります。
※これからご紹介するのは治療や施術の一例です。
患部の場所や症状など、診断の結果に応じて上述した施設での施術を受けるようにしましょう。
マウスピース(スプリント)
歯並びやかみ合わせに問題がある場合に使用されます。
歯並びを矯正する、寝ているとき無意識に歯を食いしばったり歯ぎしりするのを防ぐなどの目的で使用されます。
マッサージ
あご周辺の筋肉の機能が低下している場合に、筋力を取り戻す目的でマッサージを行うことがあります。
手技によるもみほぐしや、低周波を使った電気刺激などが挙げられます。
筋膜リリース
顎関節症の症状が出て、筋肉が緊張したり炎症を起こして腫れると、周囲の筋膜が押しつぶされて固まる、いわゆる「癒着」した状態になることがあります。
筋膜が癒着していると、周辺の体液の循環が悪くなるほか、筋肉の緊張が解けたり腫れが引いても癒着した筋膜が引っかかって顎関節の動きが悪くなったりします。
そこで、癒着した筋膜を正常な状態にほぐす筋膜リリースを行います。
顔や首などのデリケートな場所に対して行われるので、「メディセル筋膜療法」のような比較的負担の少ない施術が行われます。
トレーニング
マッサージと同様に、顎関節症に関わっている筋肉や靭帯が機能低下を起こしているときに、それらの伸縮性や柔軟性を引き出すためのストレッチを行うことがあります。
もちろんマッサージと並行して行うケースもありますが、注意が必要です。
必ず、専門家の指導のもとで行ってください。
自己流でマッサージやトレーニングを行うと、かえって状況が悪化する恐れがあります。
消炎鎮痛剤
歯科医院や整形外科などの「医療機関」では、必要に応じて炎症や痛みを抑える「消炎鎮痛剤」を処方してもらえます。
ものを噛むときの痛みがひどい時は、各医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。
いかがでしたか?
今回は、顎関節症についてご紹介しました。
顎関節症は、単純に「あごの骨が痛んでいる」という問題があるだけではなく、その周辺のさまざまな組織にもトラブルが起こる症状です。
あごの痛みや動きの制限を感じたら、なるべく早く対処し、顎関節症に悩み続けることのないようにしましょう。